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ピロリ菌と胃がん

ピロリ菌

1胃の粘膜に住むピロリ菌
ピロリ菌は3~4本の鞭毛を持った、らせん型の細菌です。胃液の中は強い酸性の塩酸があるため、細菌は棲めないと考えられていました。1983年にオーストラリアのロビン・ウォレンとバリー・マーシャル(2005年ノーベル医学生理学賞受賞)によって胃の粘膜から発見されました。ピロリ菌はアンモニアを作り出すことができるため、自分の周りを中性に近い環境にすることが可能となり、生きてゆくことができるわけです。感染経路は経口感染と考えられています。

ピロリ菌電子顕微鏡写真
(北海道大学大学院医学研究科 病態内科学講座消化器内科学 斎藤永仁博士より供与)

ピロリ菌
spiral-shaped form

ピロリ菌
coccoid form

※通常は左図のらせん形の鞭毛(ベンモウ)をもつ桿菌であるが、悪条件下では球形で生存できる特徴がある。

2ピロリ菌が起こす病気
ピロリ菌はアンモニア、空胞化毒素、ピロリ菌に反応した好中球が作る活性化酸素などにより炎症が引き起こされます。

急性胃炎から慢性胃炎、さらには萎縮性胃炎へと進展していきます。
一方、ピロリ菌は胃粘膜への直接障害が強く、胃酸分泌を刺激するため、胃潰瘍、十二指腸潰瘍を引き起こします。

健康な胃
【健康な胃】
※ピロリ菌のいない健康的な胃

十二指腸潰瘍
【十二指腸潰瘍】

胃潰瘍
【胃潰瘍】

3ピロリ菌の除菌治療
ピロリ菌感染をともなう胃潰瘍、十二指腸潰瘍に対する除菌治療が、2000年11月より保険適用になりました。従来の潰瘍治療に比べて除菌治療の優れている点は、治癒率が高いことに加えて再発率が低いことにあります。
(岡山医学会雑誌 第121巻 August 2009, pp. 109-112「胃潰瘍診療のガイドライン」)

ピロリ菌の除菌は、2種類の抗生物質と1種類の胃酸の分泌を抑える薬を1週間飲むことで治療は終了となります。治療中、軟便、軽い下痢、味覚異常などの副作用が生じることもありますが、薬の服用を中断することなく治療を最後まで続けることが重要です。途中で服薬を中止した場合には、除菌に失敗するばかりか、耐性菌を作ってしまうからです。初回方法で除菌ができなくても、2007年9月から新たな薬剤(メトロニダゾール)が保険適用となり、二次除菌が可能となりました。

4胃がんとピロリ菌の関係
発がん物質とピロリ菌とをスナネズミ(ピロリ菌を胃のなかに感染することができる動物)に投与したところ、ピロリ菌に感染していたネズミのほうが高率に胃がんを発生したことが報告されました。(ピロリ菌を除菌して胃がんを予防する – 日本病理学会)

またヒトにおいても、ピロリ菌感染者のほうが胃がん発生率が高いことも知られています。
特別な胃に発生する悪性リンパ腫では、除菌治療で改善することも明らかとなってきました。(胃がん治療ガイドライン:胃がん学会刊行)
1994年にはWHOがピロリ菌を胃がんの発がん因子としました。現在も発がんとの関連について明らかにするための研究が進められています。胃がんの予防のためにすべての方に除菌をすべきかは、意見が分かれる複雑な問題です。

しかし現時点でも特殊な胃炎(鳥肌胃炎:ピロリ菌感染に反応して、粘膜下にリンパ濾胞を多数形成している胃炎)などでは十分なインフォームドコンセントのうえで除菌の適応があると考えております。

ピロリ菌陽性胃がん
【ピロリ菌陽性胃がん】

鳥肌胃炎
【鳥肌胃炎】